人工頭脳(ArtificialBrain)


従来からの伝統的記号主義 ≒ 人工知能(ArtificialIntelligence)の枠にとらわれず、 人工頭脳(ArtificialBrain)or 強いAI or 人工汎用知能(Artificial General Intelligence) 実現に関して私なりのイメージを大胆にスケッチ(プログラム化)してみました。

1.【低次のコネクション】

@統合

入力を7個の要素(チャンク・chunk)として並列的な入力、または時系列的な入力を統合する。統合点は新たな表象 (認識の単位を認識のレベルに関係なく表象と表現)となり更に上位のレイヤで統合される。

A汎化

チャンク入力元との結合コンダクタンスは強化学習的な制御により調整される。また統合点も有意度に応じ強化 または削除されることで汎化が進む。

Bカテゴライズ

時間相関の高い表象や、共通の上位表象を有する表象などは互いに集合しカテゴライズされる。

[集合・チャンク・分類]
時間的相関の高い表象がチャンク(認識の纏まり)を構成し、徐々に集合する。また、 チャンク同士も情報距離(ここでは時間的相関)に応じ集合する ことで分類(カテゴライズ)が自己組織的に進行する。脳のこの様な性質をシミュレーションしてみた。

■表象が情報距離に応じ自己組織化する動画


黄色の枠はチャンク化が完了した状態、同じ色(赤黄緑)の表象(励起点)は励起の時間相関が高い。

2.【自己回帰】

処理の対象をシステム自身にも向けることで該処理機構自体や学習機構自体も学習の対象となり構成上は知能の無限向上的な 特性を得る。これを人工的に実現するためには意識(内省的な自己の実感・クオリアなどというものは脇に避けて)の 「機能的側面」に着目する必要がある。

【ArtificialBrainに実装された意識の機能的側面】
@意識的作業は徐々に自動化(無意識化)する
A意識的認知は徐々に直感的(無意識化・汎化)する
B意識は対象(表象)を7個の単位(chunk)で統合(フレーム化)する
C意識は事象にスポット的に着目し、記憶する
D意識は事象にスポット的に着目し、表象の抑制(無視)が可能
E意識は事象にスポット的に着目し、表象の励起(強調・先読み)が可能
F意識は未経験事項(表象)に誘導されスポット的強調(注目)する
G意識は先読み失敗事項(表象)に誘導されスポット的強調(注目)する
H意識は快、不快事項(表象)に誘導されスポット的強調(注目)する

3.【状況と行動のセット】

各部・各レイヤの処理ユニットは受け持つ入力範囲内の全ての状況に対してミクロ/マクロおよび内部/外部 に関わらず常にそれらの状況に対応した行動を発動する。(内部への働きかけも全て行動と表現)

4.【本能】

任意の状況において達成したい状態(快を含む)と回避したい状態(不快を含む)を計算(快が最大となる行動、 または不快が最小となる行動)し、それに添った行動を選択することでシステムの向かうべき方向性を規定する機能を 本能と考える。本能は主にアプリオリに設定されたものであるが最終的に「快に集約される」ことから 後から外部より「報酬と罰」によって構築された特定の「欲求」と本質的な違いは無い。

ArtificialBrainは以下で説明する4種の基本ユニットで構成され(特殊表象は純粋表象を利用)、 これら基本ユニットの生成/削除、結合/切断により自己組織的に合目的的なシステムを構築する。 一方、予めプログラム(アプリオリな機能)された機能もあるが、自己回帰によりそれ自身も修正対象となる。

1.【統合表象】IR・TIR

入力を7個のチャンクとして統合する。入力が再度同じ励起状態となった時テンプレートマッチングによりその統合点(統合表象)が 励起される。統合にはある瞬間の励起状態を捉えた並列統合IRと時系列的変化を捉える時系列統合TIRの2種類がある。

2.【択一表象】SEL

任意の表象をグループ化しそのグループ内の只1個の表象のみを択一的に励起させるための特殊な表象(あるカテゴリを表象する) 、ニューロンの側抑制的な機能とそのグループの表象を担う。

3.【分散表象】DR・TDR

統合表象と逆の機能を有し、分散表象が励起するとその先に結合する1組(最大7個)の表象が励起される。また分散表象も 統合表象と同様に一時並列的に出力する種類DRと、時系列的に出力する種類TDR、の2つがある。

4.【純粋表象】PR

入力範囲を統合したり、択一的な制御機能を持たない純粋な表象。一般のNNと違うところは、入力レベルの合計で閾値を判定 するのではなく、入力の中から最大レベルのものを選択しそれが閾値を超えているかを判定する。つまり励起元を1個に限定 している点。(これはNNとの大きな違い、伝統的記号論を単にニューロ的なものに置き換えただけという気もしないでもない、 私自身未だにスッキリしない部分だがこうしないと論理的に整合が取れない・・)。その他、励起伝播の際、上位の表象 (上位レイヤ)への励起伝播に失敗したときは自身も励起抑制(暫定励起をキャンセル)する。

5.【特殊表象】

予めプログラム(結線)されたアプリオリな機能を起動する、またはその状態を表示する、さらに任意のポイントへの 機能の呼び込みを指示(タグ表象)したりたりするために定義された純粋表象を特殊表象と表現。
これらを大別すると「コントロール表象」「ステータス表象」「タグ表象」の3種がある。

@コントロール表象の例

reward表象:受容器として定義される表象(受容器を表象と表現すると違和感があるが全ての表象の状態を検知でき意識的に制御可能で あるのでその意味で他の表象と同じ)であり、外部から「報酬」として該表象が励起されるとプログラムされた機能によって その状況に意識が呼び込まれ、且つplesur表象(快)がその際の記憶と共に結合される。
setAction表象:意識的にある行動の発動を指示するタグ(setAction表象)を付加する。

Aステータス表象の例

danger表象:意識処理・無意識処理に関わらず危険を検知した時に励起される表象。
pain表象:「苦」のレベルを表わす表象。

Bタグ表象の例

cp表象:現在の意識点「意識のスポットライトがあたっている部分」と結合するタグ。
unknown表象:状況に対応した統合表象が存在しないなど、未知の入力や無意識的処理に詰った(接続先なし) の際に励起される表象。

5.【時系列表象】

意識点が変化(別のところに意識が移る)した際に時系列表象が順次追加されそのときの状況を時系列的に記録する。
※この記憶方式は直感的にあまりに一般のコンピュータ手法(オートマトン的情報処理)であり安直過ぎるが、現状 他に良い方法も見つからないため、暫定的に利用する。

■特殊表象に関するヘッダファイルの一部を公開

ある状況において内部的または外部的に「報酬」を与えられたり逆に「罰」を与えられたりすると 前者は「快」の経験として後者は「苦」の経験として記憶される。
そして次回同じ状況を察知(先読機能)すると、それが快に関係するものならそこに導く行動を誘発し、 逆に苦に関係するものならこれを回避しようと別の行動を模索する。
このように「快」を求め「苦」を回避するアプリオリな「本能」をプログラム(表象間の結合)によって 実現。尚、本能には快・苦によって裏付けされた「欲求」などもある、更に欲求も知識欲(前記の統合表象なし、 や接続先なしの状態)などに細分化される。

■本能のプログラムに関するソースファイルの一部を公開

ArtificialBrain の応用例として、倒立棒の実験を行いました。 但し、処理速度が追いつかなかったため記憶や先読み機能などをカットし、 主に統合・汎化された経験から現在の状況に対して最も有利な行動を選択 する、といった一部簡略化した仕様で実験しています。

■ArtificialBrain を応用した倒立棒の実験動画


最初は数秒で倒れてしまいますが、後半はかなり安定します。

@処理速度

最初は「旗上げゲーム」(指示した旗と同じ旗を上げたら報酬を与え、上げなかったり間違えたら罰を与える) をやらせてみたのですが、処理速度が遅く(比較的早いPCを使っても)この程度の課題がやっと いう印象です。因みに本システムの結合数(シナプス数)に関する処理速度は約3万synapse/secであるのに 対し、人間の場合おおよそ10の16乗synapse/sec(10^10Neuron.neocortex,10^4synapse/neuron,不応期間10ms.max)ですから 脳は新皮質だけでも本システムの約3千億倍の能力があります。という訳で1台のPCではあまりに非力です。

Aおばあさん細胞説

脳が表象を1個のニューロンのみで表現しているとは考え難いですが、本システムの場合、インプリの都合 (本能のプログラム、etc.)や論理の明解さを重視し、あえて1neuron1表象方式としました。 このような簡略化は、あるいは自己組織化を困難にする要因の一つと成りかねません。また全体的 に少々強引な作り込み(従来からの伝統的記号主義に近い)も含め、特に自己回帰による再構築の際の発散要因 ・非収束要因になる可能性も考えられます。

B実感(クオリア)

コンピュータ(オートマトン)などによる計算論的な手段(情報処理/記号操作)から 意識やその他の実感(≒クオリア)が生じ得る筈もありません、しかしArtificialBrainではどうしても 「欲求」など実感(衝動)そのものとも言える要件を擬似的にでも記号論的に表現(実現)しなければなりません。
しかし、「このあたり何か根本的に『無理』がある」 ArtificialBrainを考える上での『最大の悩み』がそこにあります。


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